住み慣れた家の傷みが気になる。中古住宅の購入を検討している。そんなときに気になるのが、建物の状態です。


せっかく耐震診断を受けても、結果を正しく理解していなければもったいない。建物に耐震工事が必要なのはどんな場合か、考えてみましょう。
ここでは耐震診断書の確認点・耐震工事を急ぐ理由・補助金について考えます。
Contents
耐震診断から知る耐震工事の必要性
建築士などによる耐震診断を受けると、結果は「耐震診断結果報告書」というかたちで提出されます。決まった書式はないため、各診断士により体裁は異なりますが、報告内容は共通しています。
耐震診断結果報告書では現地調査の結果を次の項目に分けて数値化し、全体としての評価のあとに、その根拠となる情報を付記されます。
- 総合評価
- 階ごとの平面図
- 地盤、基礎
- 劣化度
- 壁の配置バランス
- 必要耐力の算出
- 耐力要素の詳細
最も気になるのが総合評価は壁や柱といった建物上部の構造が持つ評点の中で、一番小さい値が判定値として示されます。
総合評価 判定値 | 判定 |
1.5以上 | 倒壊しない |
1.0以上~1.5未満 | 一応倒壊しない |
0.7以上~1.0未満 | 倒壊する可能性がある |
0.7未満 | 倒壊する可能性が高い |
総合評価 = 上部構造評点の最小値 |
では上部構造の評点はどうやって計算するのでしょうか。震度6強の地震が起きても建物が倒壊しないために必要な力を必要耐力といいます。必要耐力の数値に対し、現在建物が持っている力(保有耐力)の割合を計算したものが評点です。上部構造について、各階ごと、各方向ごとに算出します。
上部構造評点 = 保有耐力 ÷ 必要耐力 |
耐震工事が必要な評点は?
総合評価の数値が「1.0 (一応倒壊しない)」であった場合、これは新耐震基準を満たす建物ということになります。つまり1.0以上であれば今すぐに耐震工事を考える必要はありません。
では判定値が1.0未満の場合はどうでしょうか。耐震基準に達しておらず何らかの耐震補強が必要でしょう。また、0.7未満になると劣化の進行などによって構造が脆弱になっていることも考えられます。特に築年数が経過している建物は注意が必要です。
建築年から知る地震への備え
耐震工事をするもしないもその人次第?必ずしもそうではありません。度重なる地震で人的にも大きな被害を出してきた日本は、国としての対策を考え、古い住宅の改修を促しています。
旧耐震基準と新耐震基準、2000年基準
旧耐震基準 | 震度5強程度の揺れでも建物が倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能
→大規模地震を想定していない構造 |
新耐震基準 | 中規模の地震(震度5強程度)に対しては、ほとんど損傷を生じず、極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないこと
→大規模地震から命を守る構造 |
参考:内閣府 防災白書
戦後、地震列島日本では建築法の見直しがたびたび行われています。中でも大きな転換点となったのは1978年に起きた宮城県沖地震です。建物の全半壊は7400戸を数え、これまでの建築基準を再考せざるを得なくなりました。
改正された建築基準法を境に、1981年6月以前に建築確認の申請が行われた建物を旧耐震基準、1981年6月以降を新耐震基準と呼んでいます。旧耐震基準の建物は、今後起こり得る巨大地震に対応できる強度が足りず、命を失う恐れを伴う危険なものです。
新耐震基準となってからも制度の見直しは続き、2000年6月には住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が定められました。この法律は1995年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえたもの。全壊約10万5,000棟、半壊約14万4,000棟という甚大な被害は、死者6,434名、行方不明者3名、負傷者43,792名という大きな犠牲につながりました。旧耐震基準の建物をそのままにするとどうなるか、その危険性を目の当たりにすることになったのです。
品確法は、木造住宅に対し「基礎」「筋交いの接合部」「壁のバランス」に配慮した、より強固な建物を造ることを義務化しました。これを2000年基準と呼んでいます。現在、新たに住宅を建てるには建築基準法上、新耐震基準・2000年基準に適合する建物でなければなりません。では既にある建物についてはどうしたらよいのでしょうか。
既存の建物に関しては、1995年12月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が施行されました。耐震診断を受けること、またその結果が新耐震基準に満たない建物は改修を行うこと促しています。
2006年1月には改正耐震改修促進法が施行されました。これは都道府県に具体的な数値目標をあげた耐震診断及び住宅の改修計画を求めるものです。こういった経緯から各自治体が旗振り役となり、補助金を出して住宅の耐震化を進めようとしています。
優遇措置もいろいろ!助成金で自宅の耐震工事を
「長寿命住宅(200年住宅)」という言葉が各種メディアで見聞きされるようになりました。国土交通省が旗振り役となって行うこの制度は、一世代が30年住んだらそれでおしまい、次の世代が住むには建て替えが必要となるような家ではなく、親から子、子から孫へと多世代に渡って引継ぎながら住んでいく、価値ある家を残すことを目的としています。
これに伴い、旧耐震建物の改修促進と合わせ、耐震工事を行った場合に利用できるさまざまな優遇措置が設けられました。
耐震工事に対する助成金・補助金
一定の条件のもと、耐震改修にかかる費用の一部を負担する制度が、各自治体に準備されています。条件に該当する工事の場合は、申請をすれば自己負担の軽減が期待できます。
国土交通省が調査した各自治体の補助制度の概要が、一般財団法人 日本建築防災協会のサイトに掲載されています。より詳細な内容については、お住まいの自治体に直接問い合わせてみましょう。


◇申請できる要件を確認しよう
各自治体によって求められる要件は異なるため、確認が必須です。多く見られるのが
- 旧耐震基準(1981年6月以前)
- 2階建木造
- 住居として使用
という3点です。他にも「自治体の指定する耐震診断を受けている」「自治体の指定する水準まで耐震レベルを上げる」「契約以前の申請」などがあります。
申請に要する書類が多く、準備にも時間が必要になります。各自治体の窓口で事前に説明を受けましょう。
減税も!耐震工事で使える制度
耐震改修工事をすることで、税制上もメリットを受けることができます。令和2年9月現在に利用できる所得税と固定資産税の減税について見ていきましょう。
◇所得税の特別控除
耐震改修促進税制(耐震リフォーム 投資型減税)
「性能向上リフォームを推進することで、耐震性に優れた良質で次の世代に資産として承継できるような住宅ストックを形成するための制度」として施行されたのが耐震改修に関する特例措置です。平成21年1月1日から令和3年12月31日にかけて施行されるこの制度では、要件を満たす耐震改修工事を行うと、その年の所得税額が一部控除されます。
旧耐震基準の建物を新耐震基準まで引き上げるために行った耐震改修工事に対し、上限を250万円として、工事に関わる費用の10%をその年の所得税額から控除するもので、必要となる要件は
- その者が主として居住の用に供する家屋であること
- 家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
- 改修前の家屋が現行の耐震基準に適合しないものであること
の3点です。注意すべき点は「工事を行ったその年限り」であることと、「上限額」が決められていること。250万円を超える工事はすべて一律25万円の控除となります。
【例】
200万円の耐震改修工事=20万円の控除(200万円×10%=20万円) 400万円の耐震改修工事=25万円の控除(上限250万円×10%=25万円) |
各税務署に必要書類を持参の上、確定申告が必要です。
◇固定資産税の減税
耐震改修促進税制(固定資産税)
要件を満たす耐震改修工事を行うと、工事完了年の翌年度分の固定資産税が2分の1減額されるというこの制度は、適用期間が令和4年3月31日までに延長されました。要件は3点あります。
- 昭和57年1月1日以前から所在する住宅
- 現行の耐震基準に適合する耐震改修であること
- 耐震改修に要した費用の額が1戸あたり50万円超であること
工事完了後の3ヶ月以内に、所定の自治体に必要書類を添えて申告します。
まとめ
今後の暮らしを考えて受けた耐震診断。命と財産の保護のために、課題は急ぎ解決したいものです。助成金・補助金制度を有効活用し、安心できる住まいを目指しましょう。
一方で、助成金や補助金に縛られ過ぎないことも大切です。助成金が出る水準までリフォームする予算はないからと、なにも手を打たないでいれば、明日にでも起こりうる地震に対し、身を守ることが難しくなります。
新耐震基準までは難しくとも、現状より少しでも数値を上げることができれば、それはけして無駄ではありません。必要な耐震工事を無理なく行いましょう。